色が深く染まる魅力について phro-flo

布をプリントする世界において、色は奥深く染まれば染まるほど綺麗だと言われます。

柄染めでは奥まで染めようとするほどに、写真的な精細さを表現するのが難しくなり、逆に写真的な精細さを表現しようとすると、表面的な部分にしか色が入らないという傾向があります。
細かい粒子で染めれば、写真的な印刷になりますが、細かく横に広がらない分、布の奥にも進みにくい。
そうなると、上っ面が染まった布と言うことになる。
感覚的には、染めという響きより、印刷というイメージに近いというか。染められた布と言うより、印刷されたというイメージですね。
それは身につける色面の表現としてどうしても弱さを持ちます。

2013年の柄のひとつ、桔梗の柄は注染という技術で染まっています。
120年続いた注染屋さんの最後の仕事になってしまったと言う話はここで触れました。

注染というのは折り返して、注ぎながら染めるため、裏表がなく染まる技法です。
ただその分、絵際や精度に難点があったりします。
主に手拭いに使われる技法で、後に浴衣へと広がっていきました。
浴衣には、注染で染める粋さと言うのがあります。
やはり、第一義的には、裏表のない染めである綺麗さや色の確かな強さというのがあると思うのです。

インクジェットがこれからより技術的な向上も進み、普及して主流の印刷方法になっていく、その中でそういったデジタル機器から出るような微細な柄が増えるほどに、注染のほっこりとした染めはむしろ価値を持つようになって来ると思うんです。
ましてや、注染の場合、決して同じものが続くわけではない。

去年、初めて自分で注染という技法をお願いして、他にはない独特でそれしかない魅力で染まる技法だなと感じたんですね。
すごく暖かみがあって、優しくて、染めの表現ってこんな風な魅力もあるんだなと実感しました。

そうなると、自分の技術でもある、シルクスクリーンで、その持っている魅力の一端を、どう表現するのか挑戦してみたいと思ったんです。
量産的な思考や、手間を考えたらあまりやる価値はないのかもしれないけれど、自分の範疇であれば、十分試すことが出来る。
たとえそれが仕事にならなくてもいいんです。表現としてやりたかったんです。
そのための浴衣ブランドだったりもして。

3つの柄、撫子、縞撫子、無地名菊。技法をそれぞれ使い分けてシルクスクリーンで表現しています。

特別で新しい技術を使うと言うことではないです。
単純な技術の組み合わせだったりします。
裏表なく染める、ぼかしをなめらかに染める。
どちらも、注染が得意として、シルクスクリーンが不得意としている要素です。
不得意と言うことは、出来るけれど、手間が掛かると言うことです。
ただそこをやってあげると新しい発見があったりもします。
さらに、キチッと柄が出ると言うより、手で型染めで、そういう緩やかなブレの表現も出したいと思いました。
これもやっぱり、自分のブランドだから出来ることです。受けた仕事だったら、怖くて手をなかなか出せません。
毎回どう出るかわからないですし。
捨てられがちな、そういう領域の染めが自分が好きだというのもあります。

2013年の今期のシーズンは、すべての柄が、裏表がない染めになっています。
もしくは裏表があっても、裏もまたそのテクスチャーが美しい。
という表現です。
同じ柄でも、色によって方法を変えていたりします。
たとえば、無地名菊の黒は、わざと、色が抜ききれないように、また色が白く抜けてしまわないような加工をしています。

色が奥まで入れば、色の力が強くなる。
色が強く、そして少し自由に遊んでもらう。

吉祥寺の展示会場では、光が通り抜けて、通り抜ける風に布が揺らいでくれるように、飾りました。
布を光が通り抜けるとき、光は色を運びます。
光が透けると、その色の力の差はより明確になります。

色が染まっているって、いいなと思いました。
花暦という今回のテーマ。
古い物と新しい物が優しく融合してくれるような。

さらに今回の技術で出来ることを前進させてみたいなとも思っています。

色が裏表なく、奥まで入る。その価値や感覚を、是非実感して頂ければと思います。
やっぱり違います。
ああ、染まっている。という感じがするんです。

新宿伊勢丹での販売は7月2日までです。それで夏休みが来ます。
夏だ夏。

僕はもう少しで、仕事を放り投げて、遊びに行きます。

ああそうそう、浴衣を着るってすごく良いですよ。ちょっと上がります。やっぱり日本人だなあ。と思うわけです。
この先も、身につけたときに心からそう感じられる、一着を作っていけることが出来たらいいなと思っています。


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  • コメント (1)
    • lamplighter
    • 2013 07/10 11:05am

    私は、新宿伊勢丹での販売最終日に、二人の娘たちの姿を思い浮かべながら、こちらの浴衣を購入させていただきました。通りすがりにふと手にした浴衣・・、中心にぽっと灯りがともっているかのような桔梗の柄と柔らかな布の風合いに魅せられ、どうしても手放すことができなくなってしまったのですが、それは一枚の布にここまでの手間と想いが込められていたからだと知りました。長く大切に着させていただきたいと思います。(まず八月初めに長女がこれを着て納涼船遊びに出かけることになりましたが、どうか汚さないように気を配ってもらいたいですね。)最後になりましたが、この浴衣の制作に関わられたすべての皆様と、優しく気持ちのよい対応をしてくださった販売スタッフのお二人に感謝いたします。突然のコメント、失礼いたしました。

コメントは閉じられています。

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